2019アジアカップ準決勝として、イラン戦が行われました。
事実上の決勝レベルの試合で、ここまで良くない試合が続いていた日本ですが、見事に3-0で勝利しました。
今回はなぜ日本がうまくいったのか?なぜイランは強敵と言われながらうまくいかなかったのかを分析し、解説していきます。
INDEX
日本とイランの攻守のフォーメーションについて
日本とイランの攻守のフォーメーションは以下でした。
- 日本(攻)→イラン(守)
- 日本(守)←イラン(攻)
日本はいつも通りの4-2-3-1,4-4-2で、イランは4-1-2-3,4-1-4-1でした。
イランはビルドアップ時にエイブラヒミのCB落ち、デヤガの右SB落ち等の3バックに変形する方法を複数持っていますが、大迫と南野のプレッシングによってうまく封じられていました。
イランは後半25分に選手交代とともに以下の4-4-2に変更しています。
相手とのフォーメーションのかみ合わせはすごく良かったのでその辺りを解説していきますね。
アジアカップ2019日本対イランのハイライト動画
課題と試合中に起こっていた現象
戸田和幸さん・小澤一郎さん の裏解説、岩政大樹さん・清水英斗さんのスカサカ、Leo the footballさんの分析コメントを聞いてから、再度試合を見返して抜き出したシーンと一緒に振り返っていきます。
イランの守備について
- アズムン・デヤガ・ハジサフィのプレスの決まり事がなく、弱点のアンカー脇がつきやすいかみ合わせになった→☆1
- ネガティブトランジションの速さが際立っていた→☆2
日本の攻撃について
- 柴崎・遠藤・大迫・南野によって効果的にアンカー脇から攻略できた→3
イランの攻撃について
- 嫌な場所へのロングボールを蹴っていたが日本はしっかりと対応できた→☆4
- 嫌な位置のFKを多数取られたが、日本は守り切った→☆5
- 後ろからのビルドアップを選択しなかった
- 後半に4-4-2に変えたがうまくいかなかった→☆6
日本の守備について
- 前線のプレッシングで相手に後ろからのビルドアップをさせず、ロングボールを蹴らせていた→☆7
- 酒井の裏にIHが走り込み、柴崎とマッチアップされたサウジ戦でも見られた課題→✩8
有識者コメントの分析・感想とビジュアル解説
✩1プレスの決まり事がなく、弱点のアンカー脇がつきやすいかみ合わせ
イラン前線3枚(アズムン・ハジサフィ・デヤガ)のプレスは、日本のCBにはプレスせず、柴崎・遠藤を少し気にするという程度の物でした。
- 1
- 2
上記シーンのように吉田・富安にはプレスせず、2のシーンで柴崎がもらいに行くとハジサフィが少し気にしています。
このプレッシングだと自由にCBからパスを出せてしまい、ハジサフィ・エイブラヒミ・デヤガの隙間を使い放題でした。
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シーン1でハジサフィ・エイブラヒミ・デヤガの中間に遠藤が入っていき、そこにパスを出す事で容易にエイブラヒミの脇に顔を出した大迫にパスを出せてしまい、そこからニアゾーンへ走る長友へのパスから大チャンスを作り出しました。
日本の最も良かった点はこの相手の弱点を前半最初からしっかりと突けていた事です。
分析されてチームとして狙っていたのです。
✩2イランのネガティブトランジションの速さが際立っていた
イランの守備意識の高さ、守備の切り替えの高さはよく訓練されていて、強敵と言われる理由の1つになっていました。
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シーン2のレザイアンはスプリントで戻り、シーン4で南野の縦方向のドリブルを切るところまで一瞬で戻っています。
このボールカットの一連の流れで、以下のように各選手には明確な役割がありました。
- レザイアン:ドリブルを止める
- エイブラヒミ:大迫へのパスコースを消しながら寄せる
- デヤガ:後ろからボールを刈り取る
早く戻るだけでなくシステマチックに南野を囲んでいますので、よくトレーニングされているのでしょう。
✩3効果的なアンカー脇攻略
✩1で紹介した方法だけでなく、以下の様なボール回しでもアンカー脇に侵入していました。
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シーン1でエイブラヒミ・デヤガ・ハジサフィの三角形の脇を堂安・大迫ががっつり狙っています。
シーン2では大迫・堂安どちらにも出せる状態で、シーン3での1タッチプレーのおかげで、大迫はバイタルエリアで前向きでボールを持つ事ができました。
柴崎の判断とパススピード、堂安・大迫のポジショニングも良かったですが、画面左端でDFラインを押し下げて深さを取っている南野のポジショニングも良かったです。
大迫が下がった時に、南野が上がって、深さを作るので、大迫が前を向けるほど最終ラインが近くにいない状況を作り出しています。
このようにイランの守備ブロック・プレスは日本の攻撃にとって攻略しやすい並びだった事が攻撃がうまく行った理由でした。
そして、それに関してJリーグ公式の柴崎の選手コメント抜粋↓でも狙っていたという事を言われているので、スカウティングして意図的にこのシチュエーションを作り出していたのは見事でした。
彼らは中盤3枚の形が僕らの戦術とある意味でマッチしているので、そこにボールが入っていれば前半から前向きで仕掛けることができるかなとは思っていた
✩4嫌な場所へのロングボール対応
イランはビルドアップしてきませんでしたが、ただ蹴るだけでなく、日本にとって嫌な場所へ蹴るという事を行っていました。
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ジャハンバフシュからのボールが1バウンドして権田と富安の間に落ちるようなボールです。
このコースが嫌な理由は、
- 吉田がカバーできない
- ゴールに対して富安が後ろ向き、アズムンが前向きでのボール対応
- 権田の飛び出しも難しい
同じようなボールは他にもありました。
2バウンドで富安と権田の間に来た非常に危険なシーンです。似たようなシーンがある事でも 意図的にどこが蹴る場所として良いかデザインされたプレーと言えます。
しかしどちらも権田が見事な飛び出し&キャッチを見せています。
他にも単なるロングではない嫌なボールを蹴ってきました。
これはサイドラインと富安の間に蹴ったボールです。これの嫌な理由は
- 2対1でいけない
- ゴールに向かって富安後ろ向き、アズムン前向きでの対応になる
- 最悪深い位置からのスローインなので、日本ボールになってもダメージが最小限
これもアズムンの力任せというより、アズムンを活かすプレーを選択していると言えます。
どちらも種類のロングボールも効果的、リスクを少なくするという意図があってアジアレベルでは別格の質であると言えます。
しかし日本のこれをことごとく跳ね返すCBとGKの対応によって全くうまくいきませんでしたので、日本の守備が良かったと言えます。
何か起こるかもしれないボールに対して何も起こさせなかったのです。
✩5嫌な位置のFKを多数取られた
上記写真の様なFKがこの試合ではとても多く、少しファウルを取られ過ぎたと思います。
スタッツを見ても、FKは21本、CKを5本、ロングスローも4本以上も放り込まれたのですが、全て跳ね返したのは見事でした。
ジャッジがファウルを取り過ぎな点もありましたが、もう少し数を減らすべきだったかと思います。
✩6後半に4-4-2に変えた
イランは3枚の交代カードを以下の時間帯に使用し、最後の交代後に4-4-2に変えています。
58分アミリ→アンサリファルド
71分ジャハンバフシュ→トラビ
71分デヤガ→ゴドゥス
しかし、写真の様なシチュエーションでもアンサリファルドがオフサイドエリアから戻り切る前にロングボールを蹴ってしまいます。
むしろ縦にショートパスを入れられた方が日本としては嫌でしたが、焦って人数の少ないエリアへロングボールを蹴っていました。
前半のロングボールとは違い、力任せだったので、怖さがありませんでした。
✩7日本の前線のプレッシング
大迫がスタメンに帰ってきて最も景色が変わった点の1つが守備面です。
イランのビルドアップの1つで下図のようなデヤガの右SB落ちがあります。
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このSB落ちをさせずになおかつロングボールを蹴らせたシーンがこちらです。
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大迫のプーラリガンジへのランニングでは、エイブラヒミへのパスコースを切りながら近づいています。
南野がカナーニをのぞきながら、エイブラヒミものぞいている位置、原口もデヤガ・レザイアンどちらにボールが出ても狙っており、遠藤もジャハンバフシュに付いています。
出しどころがないプーラリガンジは無理にレザイアンに出してサイドラインを割ってしまいます。
大迫のアンカーを切りながら寄せるプレス(Leoさんはコースカットプレスと呼んでいるそうで、わかりやすい名前なので私もそう呼びます)と周囲の連動がとても効果的で、イランがビルドアップ攻撃を全くできなかった要因でした。
✩8SBの裏に走りこまれた時に狙われる柴崎
サウジアラビア戦でもあった日本の弱点と言える点がイラン戦でも少し狙われました。
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堂安が抜かれた状態で酒井がつり出され、空いたスペースにIHのハジサフィが走り込みます。
こうなると柴崎が深い位置で1対1をしなくてはならなくなり、あまり対人が得意でないので、クロスまでいかれてしまいました。
日本の守備で狙うべきところは間違いなく柴崎サイドのSB裏にボランチとの1対1をつくるシチュエーションですので、注意する必要があります。
しかし柴崎もしっかり戻ってはいるので、頑張っていたと思います。
日本の課題・伸びしろ・良かった点まとめ
- 相手の弱点を見抜くスカウティングと突く戦術がとれた
- 相手のビルドアップを封じる前線の守備が良かった
- 力任せ、何か起こるかもというロングボールを全て跳ね返した守備陣
- SB裏のケア
- 交代選手がコースカットプレスをできない
メンバーが変わった時に前線の守備で同じ事ができない点と、相手の弱点を突く攻撃・守備がなぜイラン戦だけできたのかが大いに改善の余地がある部分です。
大迫の代役の影響が攻守両方に出るので、ウズベキスタン戦やベトナム戦のようなポゼッション率(この試合の場合は≒相手を自由にさせたと言い換えられます)に現れています。
せめて守備だけでも代えが効くようになれば日本はかなり強くなると思います。(現時点では、大迫・南野・香川・乾のみという感じです)
決勝戦の試合の見所
ここまでアジアカップで苦しんできて次がついに決勝(カタールとUAEの勝者)です。
- スカウティングによる弱点分析とそこを突く攻撃戦術の実行(ドン引きの相手を崩す)
- メンタル的に士気の非常に高い状態の相手
- 相手に攻撃させない守備プレスの掛け方
イラン戦では初めて勝つべくして勝った試合内容でした。
決勝戦もそういった内容の試合を見せて欲しいと思っています。