アジアカップ2019ノックアウトラウンド2回戦(ベスト8)でのベトナム戦が行われました。
ベトナムが力のあるチームではない中でどういった戦術を準備するか、どういったメンバーでサウジ戦の死闘からの中2日をリフレッシュしていくかに注目していた人も多いでしょう。
結果は1-0の勝利ですが、苦戦した理由と私なりに今回のスタメンへの考察を考えてみました。
今回も戸田和幸さんの裏解説をはじめとした有識者のコメントを実際のシーンを見ながら勉強していきますよ!
INDEX
日本とサウジアラビアの攻守のフォーメーションについて
お互いのフォーメーションは以下の形でした。
- 日本(攻)→ベトナム(守)
- 日本(守)←ベトナム(攻)
日本はいつもの4-2-3-1,4-4-2で、トルクメニスタン戦と同じスタメン・フォーメーションだったのでいわゆる森保ベストメンバーからケガの大迫だけ北川と代えています。
ベトナムは過去の試合とフォーメーションは同じ(3-4-3か5-4-1)ですが、前半10分だけプレーメーカーの19がいつもの右WGでなく右IHに入っていました。10分経つといつもの16と入れ替わり、右WGに入っています。
アジアカップ2019日本対ベトナムのハイライト動画
AFCオフィシャルのハイライト動画がどこよりも高画質でかっこいいので、動画を貼っておきます。
課題と試合中に起こっていた現象
戸田和幸さん・中西哲生さん の裏解説、岩政大樹さん・清水英斗さんのスカサカ、Leo the footballさんの分析コメントを聞いてから、再度試合を見返して抜き出したシーンと一緒に振り返っていきます。
ベトナムの守備について
前線からのプレスを行わず、ハーフウェーラインより後ろに一旦引いてきた。後半は前からプレスに来るようになった。→☆1
中盤4枚の守備ラインは横パスで段々Wボランチ間が空いてくる→☆2
ベトナムの攻撃について
ボールを奪ったらボールサイドに10が流れてカウンターの起点になった→☆3
後半から攻撃に転じるべく4バックに変えた→☆4
日本の守備について
相手3バックに対して積極的に堂安・原口が出て行った
斜めのボールがバイタルに何本も入れられた→☆5
日本の攻撃について
ボランチにつながずにCBから蹴って何本も引っかかってピンチになった→☆6
ベトナムの守備の隙間を狙えてなかった→☆7
柴崎のコーナーキックの精度が良かった
原口のポジショニング問題
1本目のランニングにパスを出すのでDFに読まれてしまっていた→☆8
ロングボールでのクリアルールが明確でなく、前線でポジションを取れていないので回収できなかった→☆9
有識者コメントの分析・感想とビジュアル解説
✩1前線からプレスに来ず、一旦引くベトナム
ベトナムは前半、日本をリスペクトしてプレスラインを後ろに設定して、一旦自陣に引くようにしていました。
- 1
- 2
日本の2CBに対して相手が1トップなので、楽に1stラインをフリーで超える事ができていますが、富安がフィーリングで裏を狙っています。
相手の方が後ろの人数は多いし、シーン1で堂安は足元を要求する手振りをしていますが富安には誰が見えているのでしょう?
✩2Wボランチ間が空いてくる横スライド
ベトナムの守備は5-4-1ですが、4のラインの横スライドが上手ではありませんでした。
- 1
- 2
- 3
吉田→富安→酒井とそんなに早くない横パスのシーンですが、シーン3でWボランチの16と7の間がめちゃくちゃ広がっていて、中央にパス入れ放題な配置です。
例えばシーン3のタイミングで酒井をもっと前線に上げておき、今の酒井の場所に柴崎がSB落ちで入るとバイタルエリア・裏にかなりのパスコースが作れてチャンスが作れそうです。
もう1つベトナムの守備の特徴(弱点)として、最終ラインが横スライドしない事がある点です。
- 1
- 2
- 3
- 4
シーン3ぐらいで、2の選手はまだいつも通りの右サイドにいてしまっていて、シーン4で酒井のランニングに4が付いていく事で南野が空いてしまいました。
シーン4で、2と3がもう少しボールサイド(写真下側)にスライドして、北川を挟むようにしておけば、南野をフリーにさせる事もなかったですね。
こういったディフェンス特徴を日本側が意図的に突いていければもっと楽なゲームになったでしょう。
✩3ボールを奪ったらボールサイドに10が流れてカウンターの起点になった
ベトナムの1トップのポジショニングにはある程度決まり事がありました。
- 1:ボールロスト
- 2
- 3
- 4
- 5
守備時からボールサイドに寄っておく事と、奪ったらそのままボールサイドの縦方向に行く事です。
これは攻防一体の決まり事であり、後ろの選手も確認しなくともある程度わかっているのでスムーズなカウンターにつながります。
こういったポジショニングや動き方の規則性がプレーをオートマチックにして、判断スピードを速める結果につながります。
アジアカップでは常々戸田さんが「ボールをもらってから味方を探している」「味方はある程度見ないで、敵を見る事で効果的なプレーをスピードを持って選択できる」と指摘されています。
次のイラン戦では強敵なので判断の良さ・速さにつながる規則性を落とし込んでチームが生き物のように動かなければ勝利は難しいでしょう。
✩4後半から行った4バックでの攻撃
ベトナムの選手交代は以下の内容でした。
54分 7グエン・フイ・フン→9グエン・バン・トアン
63分 8グエン・チョン・ホアン→12グエン・フォン・ホン・ズイ
75分 20ファム・ドゥック・フイ→6ルオン・スアン・チュオン
63分の交代から、下の写真のように4-4-1-1にしてきました。
攻撃時に3バック→2バックになるのでより攻撃的に点を奪いに来ています。
最後の最後で小柄な選手の多いベトナムの選択したパワープレーが、
日本で1番小さな長友(169cm)にベトナムで最も大きいドゥオン・バン・ハオ(185cm)をぶつける
というものでした。
- 1
- 2
シーン1では崩せてないけど強引に蹴っているのに対して、シーン2で高さで圧倒しています。
この落としがほんのちょっとずれてチャンスにならなかったですが、とても惜しかったです。
小柄なチームでも理にかなった攻め方だったと思います。
✩5斜めのボールがバイタルに何本も入れられた
後半終了間際に、サイドからバイタルエリアにパスを通されてピンチを迎えるシーンが立て続けに発生しました。
- 1
- 2
続いてこちらです。
- 1
- 2
わずか3分の間で2本も通され、サイドが異なるのにどちらもその位置を塞ぐフィルター役が柴崎でした。
疲れからなのか、意識の問題か、その両方かわかりませんがどちらも非常に危険なシーンでしたので、どんなミスでも少なくとも1本目の時点で周りから注意すべきだったと思います。
✩6ボランチにつながずにCBから蹴って何本も引っかかってピンチに
前半は特に多かったですが、フリーのボランチを経由せずにパスを出して途中で引っかかり、非常に良くない形でカウンターを受けるシーンが目立ちました。
- 1
- 2
このシーンでは酒井へのロングを前向きにカットして最高の形でカウンターできています。次の1シーンです。
- 1
- 2
ここで取られると本当に危ないだろうという場所でのパスカットです。
これ以外にも相手が1トップなのにボランチと協力して前進せずに数多くの強引なパスを出してボールロストしまくっていました。
監督の指示なのか、ボールやピッチ等の環境面なのかよくわかりませんが、前半苦しんだ最大の理由はこれだと思います。
✩7ベトナムの守備の隙間を狙えてなかった
ベトナムの5-4-1にはいくつかの弱点がありました。
✩2で解説したWボランチの間と最終ラインのスライド守備もその1つです。
他にも5-4-1の破り方の基本について解説します。
まずサッカーコートの横幅に対して5人の横スライドは大変ではないので、なかなか5人の隙間を空けるのは難しいです(以下参照)
ですので、5枚の所をサイドチェンジで崩そうとしても難しいのですが、以下のシーンのように狙っている時がありました。
- 1
- 2
- 3
柴崎から原口へのサイドチェンジですが、結局サイドラインぎりぎり過ぎてヘディングでのコントロールになり相手にボールを渡してしまいます。
シーン1の布陣を見ても、パスが通っていたからといってどれほど意味があったのか疑問ですので、サイドチェンジは相手の5枚のラインではなく、4枚のライン(この場合は長友)を狙い横スライドをさせながら広げるのが効果的です。
基本セオリーとして5-4-1で狙うべき場所は以下の3種類です。
- 4枚の間を空けてバイタルを狙う
- 最終ラインのディフェンス陣のギャップを作る
- 深い位置まで5枚のディフェンスラインを下げる
4枚の間を空けてバイタルへ
4枚の間にはWボランチ間と、ボランチとサイドハーフの間があります。
- Wボランチ間
- ボランチ-サイドハーフ間
最終ラインのディフェンス陣のギャップを作る
先ほどのボランチーサイドハーフ間の続きで堂安にボールが入ったとすると以下の図のようになる事を狙います。
この最終ラインと堂安に寄せたディフェンダーとの間をギャップと呼び、そこはオフサイドになりません。
北川がそこでボールを受けるのを狙えば中央のディフェンスは北川につくか、入ってくる南野か原口のどちらを捨てるか迷ってしまいますので、後は相手を見て相手が捨てた方を使えばフリーですよという流れです。
深い位置まで5枚のディフェンスラインを下げる
今度はボランチーサイドハーフ間の図の時に柴崎に左のSHが寄せてきたとします。
酒井にボールを渡すと次の図になり、そこから堂安と1-2壁パスを行います。
- 1
- 2
- 3
堂安と1-2でサイドの深い位置を取れた酒井のせいどディフェンスラインは下げざるをえなくなり、南野がいるライン手前のスペースが空くという仕組みです。
これの応用みたいな物が前半30分にありました。
- 1
- 2
- 3
- 4
- 5
酒井→堂安スルー→南野→堂安深い位置から手前へクロス→ずれて南野シュート打てずでした。
こういった崩しが偶然性でなく、意図的に何度も起こらないので戦術が仕込まれていないと有識者にコメントされている要因だと思います。
✩8前線の1本目のランニングにパスを出すので、DFに読まれてしまっていた
森保ジャパンでは勇敢かつ無謀にパスを入れる傾向があります。
その中で難しいパスを選び過ぎてしまう点が改善されるともっと攻撃の成功回数が増加するという考え方があります。
- 1
- 2
吉田がボールを持った際に堂安が中に走り出し、そこへロングで狙ったシーンです。
結局ピンポイントで合えばチャンスになる動きでしたが、少しボールが手前すぎてチャンスになりませんでした。
ここでもし吉田が酒井に出していたら、がくっと難易度は落ちて成功率も上がったでしょう。
堂安のランニング(1本目)で空けたスペースに酒井が走りこみ(2本目)、そこを使うとパスの難易度は落ちますし、DFとしても付いてこれない可能性も高くチャンスになりやすいです。
素直に1本目のランニングにパスを出し、待ち構えているDFと真っ向勝負をしてなかなか崩せないというシーンがかなり目立ちました。
ランニングでスペースを空けるという基本的な事をお互いに意識して動けば日本の攻撃は各段に良くなるだろうと思います。
✩9ロングボールでのクリアのルールが明確でなかった
クリアでのロングボールにルールがないので、受け手側の準備ができていないように見えるシーンがありました。
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- 2
73分のシーンでは味方のバックパスに対してフリーの原口に蹴ってミスし、カットされています。
ところが同じようなシーンで別の選択をしています。
- 1
- 2
ほとんど同じ時間帯なのに、今度はフリーの酒井ではなく、一番奥の南野まで蹴っています。
サイドのフリーな選手に蹴るというルールではなさそうです。
大迫がいる時は大迫がなんとかしてくれるので、それで良いですが、大迫のいなかったベトナム戦・サウジアラビア戦ではキーパーからのクリアボールを回収できた数が少なく、いつも思い付きで蹴っているように見えました。(大迫が出てからはしっかり収めていました)
ロシアW杯の時は、キックは酒井へという決め事が川島と酒井の間であり、かなり競り勝ってくれるので理にかなっていました。
日本の課題・伸びしろまとめ
- 相手の守備の弱点を突く戦法を選べていない
- 同じミスを繰り返し行ってしまう
- 攻め急ぐ傾向がある
今回の試合中の出来事をまとめると上記になり、これは毎試合同じだと思います。
日本代表がもっと強くなる為に、相手を見て戦法を選択し、インテリジェンスなプレーをする事を強く願います。
そして今回のスタメンで前回の死闘で走り続けた選手達・イエローカードをもらっている選手達を全くリフレッシュさせられなかったスタメンも森保監督の引き出しの少なさに起因しているように思えます。
有効な攻撃も守備も見られない試合展開が続きますので、多少メンバーを落としても勝つ見込みがあるという計算が立たず、「戦術=選手」だから考えられるベストの人を出しているだけように見えます。
足がけいれんしていてイエローをもらっている酒井を室谷に変えるのはなぜできなかったのか、人頼りに見えて仕方ありませんでした。
イラン戦の試合の見所
アジアカップで日本にとって最も難しく、最も監督の手腕にかかっている試合が次のイラン戦です。
- アジアカップで最も強敵(個の質、チームとしてのオーガナイズの両方があるチーム)
- 選手の思い付きで勝つ事が難しい
- 相手に油断がない(圧倒的格上ではないので、しっかりと日本を分析して対策してくる)
ここまでの無駄に苦しんでたまたま勝てたような試合ではなく、強い方が勝つというサッカーが見られたら良いなと思います。
もちろん応援していますが、もし敗れた場合には、結果に対してしっかりと分析と反省をして欲しいなと思っています。